肝臓などの臓器に脂肪が蓄積すると、脂肪肝を誘発してしまう
糖尿病の合併症は3大合併症以外にもある
糖尿病の合併症としては、高血圧や腎臓病、網膜症、白内障、末梢神経炎などが多く知られていますが。これらの病気以外に、脂肪肝も、糖尿病に合併して起こることが最近の調査でわかってきました。
脂肪肝とは、肝細胞に中性脂肪が沈着することで、肝臓に障害をきたす病気です。ある病院の調べで、糖尿病の患者さんの62%、境界型(糖尿病予備群)の人の40%に脂肪肝が見つかりました。血糖値が正常な人の脂肪肝の発症率は約30% でした。血糖値が高いほど脂肪肝の割合が高かったのです。
これまでは、脂肪肝はアルコールの飲みすぎが原因で起こる病気と考えられていました。しかし現在では、飲酒歴がない人も脂肪肝になることや、糖尿病や肥満だと非アルコール性脂肪肝炎(NASH)になりやすいこともわかっています。
なぜ、糖尿病や肥満の人は脂肪肝になりやすくなってしまうのでしょうか。
脂肪肝は、インスリン抵抗性が高い場合に起こりやすい病気だからです。このしくみについては次のとおりです。
インスリンは、膵臓から分泌されるホルモンで、血糖値(血液中に含まれるブドウ糖の量)を下げる働き(糖代謝という)があります。インスリンの働きが弱いことを、医学では「インスリン抵抗性が高い」と表現します。
私たちが食事からとった糖は、体内でブドウ糖に分解されて血液中に送られ、エネルギーとして使用されます。ところが、糖分や脂肪分の多い食品をとりすぎたり、運動不足でエネルギー消費が少なかったりすると、血液中にブドウ糖がたくさん余ってしまいます。つまり、血糖値が高くなるのです
インスリン抵抗性が高いと、余分な血糖は代謝されずに尿に出てきます。
糖尿病が進行して重くなり、血糖値の高い状態が続くと、なおも余ったブドウ糖は中性脂肪に形を変えて、肝臓と腸問膜に付着・蓄積されます。腸間膜についた脂肪を、内臓脂肪と呼んでいます。腸間膜を流れた血液は、次に肝臓へ送られます。肝臓は、腸間膜からの脂肪が溶け込んだ血液を直接受け止めるため、もともと脂肪が沈着しやすい臓器です。
飲酒の習慣がない人でも、インスリン抵抗性が高いために糖尿病が進んで内臓脂肪が増えれば、当然、肝臓に沈着・蓄積する脂肪も増え、非アルコール性脂肪肝になるというわけです
脂肪肝の人は、そうでない人に比べて、約5倍も糖尿病になりやすいことも、わかっています。
日本人の中年男性において非アルコール性脂肪肝は、糖尿病の危険因子であることが判明しています。女性は、もともと男性に比べて、非アルコール性脂肪肝の割合が少ないので、そのぶん、糖尿病のリスクも低いことになります。これは、女性ホルモンが脂肪肝に対して予防的に働くからだといわれています。ただし、加齢年によって脂肪肝になりやすくなります。また、海外の論文によると、非アルコール性脂肪肝がある女性の場合、インスリン抵抗性が高いと報告されています。
このように非アルコール性脂肪肝の人は糖尿病になりやすいのですが、先に述べたとおり、糖尿病が進んで非アルコール性脂肪肝になることもあります。
糖尿病と脂肪肝のどちらが先に現れるかは、個人によって異なります。インスリン抵抗性が高くても、インスリン分泌能力が高い人は、なかなか糖尿病を発症せず、先に脂肪肝を発症することになります。逆に、インスリン分泌能力が低い人は、脂肪肝を発症する以前に糖尿病を発症すると考えられます。いずれにしろ、最終的に糖尿病と脂肪肝を合併する人は多くなります。
ここ数十年で、日本では非アルコール性脂肪肝が激増しています。そして、非アルコール性脂肪肝自体、肝炎→肝硬変→肝臓ガンへと進行する深刻な病気であることが判明してきました。しかも、糖尿病歴が長い人ほど肝臓ガンになりやすいこと、糖尿病で脂肪肝を合併している人は心筋梗塞や脳卒中になりやすいことなどもわかりました。糖尿病と脂肪肝の両方を予防するうえで最も基本となるのは、バランスの取れた食生活と、体を動かすことです。