3年後の合併症が起こらないために血糖のコントロールが大事
糖尿病のほとんどの方は、医師から食事や運動について指導され、血糖値を下げるために日々努力しています。しかし、血糖値さえ下げていれば糖尿病の合併症を防げる、というわけではないのです。
だからといって落胆することはありません。糖尿病の合併症は、きちんと治療すれば予防でき、治る病気だからです。合併症さえ起こさなければ、元気いっぱいに生活でき、楽しい人生を送ることは十分可能です。当然、長生きしている方も、たくさんいらっしゃいます。
糖尿病の合併症は、糖尿病になって最低3年以上たってから次第に発症します。普通は神経→腎臓→目(網膜)の順に起こり、神経障害・腎症・網膜症は糖尿病の3大合併症と呼ばれています。糖尿病になったらこの3大合併症を防ぐことが何より大事です。
これら3つの臓器には共通点があります。それは、毛細血管が密集している臓器であるということです。血糖値が高くなると、これらの毛細血管が切れたりつまったりして、神経・腎臓・目が傷害されてしまうのです。生活してうく上でこの合併症はとても重要です。
血糖値を下げたからといって、合併症が防げるわけではないことを踏まえた上で糖尿病網膜症の発症率を血糖コントロールが悪い群とよい群で比較したところ、10年後では悪い群が21% 、よい群が6% 、20年後では悪い群が52% 、よい群が22% という結果もでています。
さらに糖尿病腎症では、20年後に悪い群で75% 、よい群で53% 。つまり、血糖をコントロールしている人でも、糖尿病になって20年後には、1割以上が網膜症になり、半数以上が腎症になってしまいます。
糖尿病は、膵臓の機能が低下して、血液中のブドウ糖が過剰に増えるのを防ぐインスリンが十分に分泌されなくなった状態です。正常な人の4分の1まで膵臓の機能が落ちて、初めて糖尿病が発症するといわれています。4分の1以下に機能が低下した膵臓が、正常に回復するとは考えられません。そのため、糖尿病は治らない病気といわれているのです。
空腹時血糖値がそれほど高くなくても、食後血糖値が基準値を大幅に上回る人は少なくありません。特に、日本人を含むアジア人は、やせているのに食後血糖値が上昇しやすいこともわかってきました。健康診断では、空腹時血糖値の検査しか行われません。つまり、空腹時血糖値が低いからといって、安心はできないのです。
糖尿病の方が合併症を予防するには、空腹時・食後・ヘモグロビンA1Cなどの血糖値のほかに、尿アルブミン値と血清クレアチニン値を定期的に検査することが大切です。尿アルブミン値はいせつとは、尿から排泄されたアルブミンというたんばく質の数値で、腎機能が低下すると上昇します。血清クレアチニン値は、腎臓の排泄機能を表す検査値です。
特に細い血管ではAGEの害が出やすいため、毛細血管が多じんぞうい神経・腎臓・日に障害が起こりやすくなるのです。
糖尿病神経障害では、手足のしびれなどの知覚神経のほか、自律神経に起こる神経障害も深刻です。自律神経は、意思とは無関係に体の働きを調節する神経で、相反する2つの働きを持つ交感神経と副交感神経があります。交感神経が優位になると体は活発になり、副交感神経が優位になると体は休息するようになります。
糖尿病神経障害で自律神経が冒されると、立ちくらみ・発汗障害(汗をかきすぎたり、まったくかかなくなったりする)・胃腸障害など、自律神経失調症の症状に悩まされるようになります。男性にとって深刻な症状であるED(勃起不全)も起こるのです。
糖尿病神経障害は、初期の段階であれば血糖コントロールをするだけで治ります。糖尿病の患者さんは神経障害の自覚症状がなくても、定期的に検査を受けることが大切です。